【カシミヤの『うぶ毛・わた』の話③】洗毛(せんもう)と整毛(せいもう)
洗毛の部屋に入ると、湿気と獣の匂いでむせかえっていました。五十メートルもあろうかという洗毛機に投入されたカシミヤは何回も何回も洗浄されて、始めの頃は褐色の濁った水で見る影もない姿ですが、この時点ではあのふわふわのカシミヤという感じはまだしません。
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褐色の濁り水から次第に真っ白いワタが
選別されたカシミヤは洗いの工程に進みます。
洗毛の部屋に入ると、湿気と獣の匂いでむせかえっていました。五十メートルもあろうかという洗毛機に投入されたカシミヤは何回も何回も洗浄されて、始めの頃は褐色の濁った水で見る影もない姿ですが、洗われていく内にだんだんと澄んだ水になり、洗いあがって乾燥された毛は真っ白です。でもこの時点では剛毛が入っているのであのふわふわのカシミヤという感じはまだしません。
最も難しいカシミヤならではの工程
羊、キャメル、アルパカなど、カシミヤ以外のウールの糸は収穫した原毛がそのまま紡績され糸に加工します。しかしカシミヤは収穫された原毛には『刺し毛』と呼ばれる硬い毛と、その内側にある『うぶ毛』が混ざっています。
あのふんわりと柔らかいカシミヤの原料にするには、うぶ毛だけを取り出さなければなりません。刺し毛とうぶ毛を分けてうぶ毛だけを取りだす工程が整毛加工です。
整毛加工とは、原料になるうぶ毛を『繊維の切断や損傷を少なく、刺し毛を完全に取り除く』ことで、カシミヤの『わた』を作る上で最も重要な工程です。これは技術的にも難しく、整毛の技術で原料の良し悪しが決まるといっても過言ではありません。
カシミヤの原毛は色と繊維の太さと長さが重要な品質基準になります。元々のカシミヤのうぶ毛はかなり長いものですが、整毛作業中に起きる繊維切断で短くしてしまうので、この工程での毛を切断させない技術が品質を左右するとも言えます。
取り除いた刺し毛(剛毛)は、畑などの飼料にして有効に利用されるそうです。
整毛の過程ではもちろん、ウール全般原料が乾燥しすぎると繊維が劣化し切断しやすくなるので湿度が重要で67%~68%が適湿度だそうです。冬場は良いが夏場は蒸し暑くて大変な仕事です。
70年代頃までは、日本の紡績会社でも土毛を輸入してこの選別から洗い、次の整毛工程まで自社で行っていたそうです。
中国は現在、土毛の選別、洗毛、整毛までは現地の雇用を維持することと付加価値を付けるために原毛では輸出しないので、カシミヤの原料といえばカシミヤ整毛原料のことです。
世界中の紡績会社は中国からの原料は整毛の原料を買うことになり、今ではこの工程は日本やヨーロッパでは見ることができません。