customorderカスタムオーダーへのこだわり
今のところ、ユーティーオーがみなさまからもっとも評価していただいているのが、「多くの色の中から、貴方の希望のサイズで作ります」というカスタムオーダーではないでしょうか。
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ユーティーオーは、ほとんどが「成形ニット」。
セーターは通常、「前身頃・後身頃・右袖・左袖・衿」の5つのパーツを縫い合わせることで作られますが、このパーツを作るために「回数書き」といわれるニット版型紙があり、それはニットを作る上での設計図のようなものです。
布帛(ふはく)やカットソーの場合は、パターンに合わせてパーツごとに生地を「カットして縫う」のですが、ニットの場合はパーツを「回数書きの通りの形になるように編む」という方法で作ります。ニットには「成形」と「カットソー」がありますが、ユーティーオーのカシミヤセーターは基本的には全て「成形」という編み方で作られています。セーターの身頃や袖などをパーツの形になるように編みあげていくのが「成形ニット」なんです。
伸びるニットを支える、「リンキング」。
タートルネックなどのかぶりのセーターを着るとき、この小さな丸いネックの開きが布帛だったら絶対に頭が入らないだろうなあと思うことはありませんか?伸びるニットと伸びない布帛の大きな違いのひとつですが、伸びない布帛ではネックの一部を開いて頭が入る状態にしてボタンやファスナーで閉じるようにしますね。一方ニットのほうはそのままかぶってもネックが伸び、頭が入ったら縮まりますね。いつも普通に行っている動作なので当然のことのようですが、それにはそれなりの仕掛けがあるのをお気づきでしょうか。
ネックのパーツには伸び縮みさせるためにゴムのように最も伸び縮みするゴム編を使っています。しかしそのゴム編みも普通にミシンで縫い付けたら縫い目が固定してしまいますので、ゴム地が伸び縮みしてもネックは広がりません。そこで登場するのが「リンキング」です。
リンキングは、伸び縮みする編地どうしを縫い合わせて伸び縮みする編地のようにする縫製の方法です。ニットの世界では縫い合わせることはリンキングが普通ですので、ミシンで縫い合わせることを「本縫い」と呼んでいます。
リンキングの方法は、ずらりと並んだリンキングマシンの針に、ドッキングさせる両方の編地を一本一本の針にひと目ひと目刺してつなぎ合わせるのですが、熟練のプロはいとも簡単に目を拾っていきますが、目落ちをさせないようにひと目ひと目刺すのはとても大変です。
素人ですと、かなりの時間をかけてもなかなか上手くいきません。失敗して目落ちして何回もやり直したり、引っ張りすぎたりすると編目が汚くなってしまう。リンキングこそ、熟練の技が必要です。
リンキングマシンには「ダイヤルリンキング」と、「やすみ」と呼ばれる手動のものがあります。ユーティーオーの工場でも両方を使っています。
ニットの仕事を始めた頃、工場さんとのやり取りの中で「いま編みが終わって、やすみやっているから」という言葉をよく聞きました。「やすみ」ってなんだろうと思ってたのですが、やすみとは手動のリンキングマシンの名称で、リンキングすることの代名詞だったんです。
それにしても「やすみ」とは変わった名前だなぁと思い、日本中の殆どの「やすみ」を扱っている圓井繊維機械に問い合わせたところ、大正の初めころに大阪の淀川に住む「八角さん」という人が発明したものだということでした。電力の乏しい時代に軽くてスペースをとらないこの手動の機械は、小規模の家内工業にはもってこいの機械で日本中に普及し、いまだに活躍しています。ニット史に残る日本人による画期的な発明だと思います。
ニットを編むのは袖口や裾などの端から。
ニットを編む場合、身頃は裾から編み始め、袖は袖口から編みが始まります。肩の方から裾に向かって編んでいくと思われがちなのですが、逆なのです。
例えば、ユーティーオーのレディスのインナータイプの前身頃の場合。最初に袋編みで裾を編んだ後、天竺編みに変えて身頃を編んでいきます。裾からウエストまで絞られていますので、両脇の編目の数を減らすことでシェイプの角度を作っていきます。減らし方も5往復に1目減らすとか、6往復に1目減らすとかシェイプの角度によって変更します。
一番細いウエスト部分まできたら、今度は脇下まで先ほどの減らし目と逆の増目の作業をしながら増やしていきます。脇の下まできたらアームホールです。アームホールの「くり」は最も繊細な減らしをしながら編んでいきます。
後身頃も前身頃と同じように編み立てますが、後身頃は、肩下がりを減らしの作業をしながら編んでいきます。お手持ちののセーターを確認していただくとわかると思いますが、たまにタートルネックのようにどちらが前かわかりにくいセーターの場合「どっちが前?」と聞かれる方がいらっしゃいますが「肩減らし」があるほうが後と覚えていると間違いありません。
肩下がりを肩線上でなく肩甲骨の上辺りに作ることで上着を着重ねしたりバッグ等を肩に掛けたときに縫製の箇所が当たらないのでごろつきが無いというのも成形セーターの良さのひとつです。
ミスの許されない、カシミヤの成形ニット。
編みミスが出たらそこまでほどいて編みなおすのですが、編み始めの裾や袖口辺りにミスがあると、そのパーツはもう一度新しく編み直すしか方法がありません。ですから「もうちょっと長くしたいとか、短くしたい」というお直しの要望があっても、もう一度編みなおすしかないのです。
またカシミヤの場合は、縫製した後に仕上げとして縮絨という大事な工程があります。縮絨をすると糸に緩みが出てふんわりと柔らかくなるのですが、その変わりに引っ張りに対する強度が落ちるので、一度製品に仕上げた製品を部分的に取り替えることが難しいというのも、お直しが難しい原因でもあるのです。
成形編みのニットの各パーツは、一本の糸で繋がっているので糸を無駄にしません。と言うより、普通の糸の10倍近くもする高価な糸ですから、1グラムも無駄にできないというのが本音ですが。限りある資源を大事に使い丁寧なものづくりは、エコロジカルウエアーとして、今後もっと支持を得られる製造方法だと思います。
お直しできないのが、ニットの常識。
ニットはループ状になった糸の連なりでできているので一箇所でも切るとそこからほどけてしまいます。無理やりカットして小さくお直しすることはできないことはありません。カットした所がほどけてしまうのでそこにロックミシンを掛けてしまうのです。ロックを掛けられたセーターはもちろん伸び縮みも着心地も悪くなってしまいます。そんなセーターを見ると悲しくなります。
もちろん幅を出すことはニットを継ぎ足さなければならないのでほぼ不可能ですね。だから多くの人が少々大きめのセーターや小さ目のセーターも、「ニットは伸び縮みがするから」と我慢して着ていますね。
織物の生地で作られた既製服では全くお直しのない人の方が少なく、殆どの人は袖丈を詰めるとか、ウエストを出すとか、何処かしらお直しをしているんじゃないでしょうか。例えば、布帛の服の場合。袖丈1〜2㎝でもお直しすると思いますがセーターの場合は特性の伸び縮みで大体カバーできると思います。でもさすがセーターでも4.5㎝になると着心地も見栄えもかなり違ってきますね。このセーター気に入っていると言いながら、袖を一折して着ている人は結構多いんじゃないでしょうか。
お直しできないのなら、はじめからカスタムオーダーでピッタリサイズに。
ニットだからお直しできないと諦めている人に何とか「ピッタリ」のセーターを着てもらいたいと長年模索して、やっと適うようになりました。お直しをできないセーターをピッタリに着るには一枚一枚作るしかないのです。工場には「どうせユーティーオーは全て一枚一枚作っているんだから」と了解してもらい、2002年に「貴方の希望の色で、ぴったりの寸法で作ります」というカシミヤのカスタムオーダーを受注会形式をはじめました。
バストから裾までストレートの着丈を長くするには編み回数を足してやれば良いのですが、ユーティーオーのインナータイプはウエストまで緩やかに絞ってあります。ウエストラインから裾まで少し広がっているのです。そのためにただ着丈を伸ばすだけといっても、ウエストから裾までの傾斜が違ってきますので目減らしの数を変えなければなりません。
最も単純と思われる着丈でも、これだけの作業をやるので、バストの幅を変更する時はそれに伴う肩幅や袖幅、アームホール、袖丈まで影響しますので、毎回指示書との格闘です。
アパレルのニット製品は、試作し本番で何百枚何千枚を作るのに対して、ユーティーオーの場合はカスタムオーダー品一枚を作るために、それと同等のエネルギーを注いで作り上げるのです。一枚一枚が真剣勝負です。
サイズ以外でも、直接ご来社いただいたお客様には、タートルの衿を伸ばしたり、裾や袖のリブを長くしたり。一部に配色を入れたりすることでデザインを変え、自分のオリジナルを作る依頼もお受けしています。できあがったセーターを着て「自然で違和感がない」というお声が、実は一番の誉め言葉だと思っています。
サイズが大きくなると使用する糸量も増えるので、サイズアップ料金をいただき対応しています。はじめた当初、4月頃にお店での受注会でお客様から注文を受けたけれど、出入りの他のメーカーさんから「ニットでそんなことをやるなんて信じられない」といわれて、8月の秋の立ち上がりに納品されるまで心配でたまらなかったということを聞いてお互いに笑ったことがあります。
ニットのカスタムオーダー。これってやっぱり凄いことだと、自負しています。