カシミヤのわたを「染める」
繊維の染め方には3種類があります。「わた染め」「糸染め」「製品染め」です。ウールの宝石といわれるカシミヤは、わた染めです。わた染めは、上流の工程で染めるので「トップ染め」とも呼ばれます。糸を紡ぐに前に、まずワタの時点で染めるのです。先に染めるほど、失敗や在庫のリスクが高くなります。
- 目次
-
カシミヤの深い色合いの秘密はブレンドにあり
この色は、UTOの別注色のNo.5703番色の「ロイヤルブルー」。一度にブルーに染めるのではないのです。微妙に違う5色のブルーを混ぜて、独特の深いブルーを出しています。
例えばこのグリーンや
こちらのブルーも
このブルーは、8色のブルーを混ぜています。各々量が異なっており、微妙な色合いを出しています。
ファッションは、一に色、二に柄、三に作りといわれるように色はとっても重要な要素です。というより、色なしではファッションは考えられませんし、特にセーターにとって色は大変重要で、カシミヤは発色が良いのも特徴のひとつです。 今回はその色をつけるための染色の話です。いかにいい色に染めるか、染の匠たちが日夜腕を振るっています。
カシミヤに限らず繊維は、ワタの状態で染めたり(トップ染め)、糸で染めたり(糸染め)、製品にしてから染めたり(製品染め)。それぞれ目的によって染め方が違います。 カシミヤは基本的にはトップで染められます。トップで染まったワタと染まっていないワタを混ぜ合わせて紡績すると微妙なメランジ効果ある糸ができます。トップグレイなどはこの染め方の代表です。
トップグレイの原料(微妙なブルーが入っている)
戦後カシミヤ製品が販売されるようになった頃の色といえば、キャメル、グレイ、ワイン、紺、黒のような明度の低い色ばっかりでした。 当時はこれらの色がいわゆるカシミアカラーと言われ、『渋くてカシミアらしい深い色』といわれたものですが、現実は外貨が少なく日本で買える糸はブラウンカシミアかグレーカシミアで高価なホワイトカシミアなどは欧米に買われて全然回ってこなかったのが実情のようです。 ユーティーオーの明るく多彩な色をご覧になって『カシミヤでこんなにきれいな色があるなんて』とよく驚かれます。
試験的に染めることを業界では『ビーカー』という
染めの最初は試験的にビーカーで染めます。だから、試験的に染めることを業界では『ビーカー』といいます。
理科実験室?理科の実験みたいですね。少しだけ染めて試します。
カシミヤは生地にやさしいトップ染め
糸を染める方法は「トップ染め(わた染め)」「糸染め」「製品染め」の3つがあります。カシミヤはトップ染めです。
染め直しの出来ない糸は早い工程で染めるほどリスクが高くなります。もしトップ染めでワタを赤に染めたら、糸は赤、もちろん製品も赤ですね。 一段階後の糸染めなら、トップ染めよりかなりリスクは低くなります。 流行によって目まぐるしく変わる色は引き付けて染めることが出来ればそれだけリスクが少なく、出来れば閑散期に生成りでセーターを作ってシーズンに入って色の傾向が判ってから染めれば絶好のチャンスを掴むことが出来ますね。 この夢の話みたいな製品染めを完成させたのがイタリアのメーカーのベネトン。これがベネトンの大躍進のきっかけでした。革命的だったと思います。しかし、繊細なカシミヤはそんな大胆な方法では風合いが台無しになって不可能なんです。
染めの準備OK!
でも染めの器がちょっと小さいと思いませんか? カシミヤの色はブレンドして深い色合いを作りだすので、何回も染めなければなりません。
ひとつの色には、5色も7色もの色がブレンドされているので、そのブレンドされている色の数だけ染めます。大変な手間です。この手間を知ると、ちょっと感動ものでしょう?
糸をブレンドする
水分のブレンドなら、ひとつの器に違うのを入れて混ぜると想像がつくのですが、糸のブレンドは全く想像できませんでした。
ジャーン!
職人さんはいとも簡単にブレンドしますが、適度が、加減が、最も難しい。 どの程度ブレンドするか。あまり何回もブレンドするとカシミヤの繊維が切れてしまいます。
職人さんってやはりすごい!