【ニット糸と織物糸】ニットは撚りが甘い
ニットの自慢話になってしまいそうですが、天然素材の原料で糸を作る(紡績する)とき、最も良い原料を使うのは実はニット用の糸なんです。
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原料の繊維の細さと長さを求められるニット糸
ニットの自慢話になってしまいそうですが、天然素材の原料で糸を作る(紡績する)とき、最も良い原料を使うのはニット糸、と言うのはあまり知られていません。
糸を作る(紡績する)基本は『原料の繊維を束ねて撚りをかける』と以前お話しましたが、糸は、撚りを強くかければ強くかけるほど丈夫な糸になります。
しかし、ニット糸の場合はふんわりした風合いが命ですから強く撚りをかけることが出来ません。
強い撚りをかけられないので一本一本の原料の繊維が長くなければ簡単に抜け(素抜け)してしまいます。
ふんわりした糸を作りたいので強い撚りをかけられないから『長い繊維の原料』を使うしかありません。当然その長く細い原料は高価なんです。
ウール(動物の毛)、特に紡毛と言われるカシミヤ、羊、アンゴラ、モヘヤ、キャメル、アルパカなどはそれぞれの特徴があります。
羊は、繊維が長く適度なクリンプがあるのでニット糸でも織り糸でも万能。
アルパカは、ぬめりのある柔らかさで、クリンプが少なく毛が素抜けしやすく、抜け毛が他の生地に付きやすい。アンゴラは、柔らかいがこしがなく切れやすく、埃のように飛び散る。モヘヤは、発色がよくストレートな繊維なので伸度が弱く編むのに苦労する。カシミヤは、抜群の柔らかさと軽さがあるが、繊維が細く切断しやすいので製造の効率が悪い。等々、動物の違いだけでなく繊維の長さをはじめ撚りの回数などで違いが出るので深い知識と経験が必要です。
生地になってからが勝負のカシミヤの織物
一方、織り糸の場合はかなりの撚りをかけてしっかりした糸を作ります。縦糸を張り、横糸を通しながら織り込んで、その上に筬で詰めて一枚の布にするので糸はしっかり丈夫でなければなりません。その為には撚り回数を多くして引きに強い糸にする必要があります。
カシミヤの織物はその生地の表面を引っかいて毛を立たせて独特の織り地を作ります。その毛羽立ちの良さが布地の評価を大きく左右します。
昔から生地を引っかいて毛羽立たせるのには、あざみ科のチーゼルの実を乾燥させたイガイガを使ってきました。あざみのイガイガがあの波打つようなカシミヤの生地を生み出していたというのはびっくりですが、そのためにヨーロッパの高級生地生産工場では自家栽培でチーゼルを育てていたんです。この頃は金属製等の代用品もあるそうですが、やはり天然のあざみの実に勝るものはないそうです。
その毛羽立ちの技術を誇るかのように、カシミヤの織物のメーカーにはあざみの実のマークをよく使っています。カシミヤ織物の代表と言われるイタリアのロロピアーナのマークにもあざみがデザインされ、カリアッヂなどはもろにあざみの実がマークです。
このように同じ原料の繊維を使っても糸に対する要求が違うので原料の選び方もちがってきます。