セーター普及のMVPはバイキング
ニットの良さはなんといっても、体の動きに合わせて伸び縮みする着心地の良さでしょう。そのニットの基本は手編み。愛情のこもった手編みのセーターに勝るものはないかもしれませんね。
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ニットのはじまり
ニットは、紀元前10世紀頃からアラビアの遊牧民により、手編みで靴下が編まれたのがはじまりだと言われています。遊牧民は自分達と一緒に移動している家畜の毛を紡ぎ手編みのニットを作っていたのでしょう。据え置きでないと織れない布に比べ、編み棒ひとつでどこへでも移動できるニットが遊牧民から始まったと言うことに必然性を感じます。
その後、エジプトに伝わりイスラム勢力が北アフリカの地中海岸に広がるにつれて西の方に伝わり、モロッコあたりからジブラルタル海峡を渡りスペインを征服したイスラム教徒達がヨーロッパにもたらしたようです。
ここからイタリア、フランスとヨーロッパ各国へ広がり、気候の厳しい北ヨーロッパで今の形のセーターに発達したようです。
ニットの遺品としては、日本の足袋靴下にそっくりの13世紀頃のニットがロンドンのビクトリア・アルバート博物館に残されているそうです。この靴下を意味するメリヤス(ニット)が地中海を中心にヨーロッパに広がったのに比べ、セーターは北ヨーロッパの北海を中心とする気候の厳しい島々で編まれ発展したのは防寒というのが大きな要素だったようです。
セーターが着用され出したのは15〜16世紀頃。スカンジナビアやイギリスの北海周辺から広まったのには、バイキングが大きく携わってきたと云われています。
厳しい自然を生き抜く知恵
セーターは汗を意味するスエットという語源からも解るように、激しい動きにも対応する衣類であるということは明らかでしょう。極寒の北海、しかも狭い船が活動の場のバイキングにとって寒さから身を守り尚かつ伸び縮みするセーターは、まったく伸び縮みしない織物に比べて、理想的な衣類だったと思います。油抜きをしていない水をはじくセーターは伸び縮みする雨合羽みたいなものですから。
バイキング達は次々と北海の島々を制圧し領土を広げていきましたが、同時に厳しい自然の中に生えるわずかな草でも育つ羊とセーターを持ち込むことで貴重な食料と防寒のセーターの両方をもたらしました。そんな島の中でもフェア・アイル島、シェットランド島、フェロー島、アラン島など、現在でもセーターの特産地として有名な島です。
バルキッシュ(編目の粗い)なアランセーターは今でも昔からの伝統を守りながらアラン島の女性達によって編まれている事で有名ですね。
羊の油抜きもしない毛を紡ぎ、家々に代々伝わる紋様を編みこんだセーターは北海の厳しい荒海で仕事する夫や息子のために家紋や安全祈願のメッセージを込めて女性達が編んだものです。
柄や模様は個人個人のメッセージを込めていることで有名ですが、このセーターの油抜きしていない糸自体にも特徴があります。
現在一般に販売されているセーターは現代風に油抜きをしてさらっとしていますが、本来のアランセーターは荒海で漁をする作業着として水をはじくように油抜きがしていないのです。少々の雨や波しぶきにはびくともしませんが慣れないと油のにおいが鼻について着ていられません。東京の満員電車の中でこのセーターを着ていたら大ひんしゅくものです。
また、ニットの特性を生かして多くのスポーツウェアーが作られているのはご存知の通りですが、スポーツウェアーの代名詞みたいにいわれるジャージーはこの北海のジャージー島が語源。セーターの故郷みたいな北海の島々。ニット屋としては是非訪れてみたい島々です。