日曜日の衝撃
五十年ほど前、私がまだ二十代の旅行屋だった頃の話です。当時は海外旅行がまだ夢の時代で、外国へ行くこと自体が大きな出来事で、私達は、アマチュアの音楽家たちを海外のコンクールに送り出したり、現地で夢のコンサートを開いたりするツアーを企画する、少し変わった旅行会社でした。
その時はウィーン市の協力でコンサートを開催することになり、市役所の若い担当者と準備を進めていました。彼は私と同年代で、とても真面目な青年でした。
ところが仕事が押してしまい、私は軽い気持ちで、「日曜日に一時間ほど出てくれないか?」と頼みました。すると彼は驚いた顔でこう言いました。「そんなことで休日に仕事をするなんて」
思いがけない言葉でした。彼はさらに真顔で続けました。「みんなが休んでいる日に自分だけ仕事をするのは卑怯なことだ」
私は正直、戸惑いました。こちらは日本からわざわざ来ているのです。「少しくらい融通をきかせてくれよ」そんな気持ちでした。
しかし今になって思えば、当時の私は彼らにとって「休日」がどれほど大切なものか理解していませんでした。
日本では、仕事が最優先で、休日はご褒美のように考えがちです。しかしヨーロッパでは、休日は単なる余暇ではなく社会全体で守るべき生活のリズムのようなものなのです。疲れたから休むのではなく、休むこと自体が大切なこと。そこには宗教や歴史の中で育まれてきた価値観があります。
仏教や儒教の文化の中で生きてきた私たちと、キリスト教やユダヤ教、あるいはイスラム文化の影響を受けてきた社会とでは、ものの考え方が違っていて当然なんです。
けれども当時の私は、それを深く考えたこともありませんでした。
「日本の常識は世界の常識ではない」この当たり前のことを、二十代の私はウィーンの日曜日に教えられました。
この時の私が受けた小さなカルチャーショックは、その後の人生の中で何度も思い出す、大切な経験になりました。

