お洒落は自分のために、みんなのために
ニットの話からは外れますが、70年代の旅行屋の頃、海外特にヨーロッパを旅している時に格式のあるホテルやレストランなどで夕食を摂ることがよくありました。
「今夜のディナーはネクタイ着用できちんとした服装でお願いします」と案内すると「エェーッ面倒くさいなぁー」とよく敬遠されました。特に男性に多いんですね。
この服装のことでツアー参加の皆さんに、今からお話するようなお話をすることでよく理解してもらい、そのうちに『今日は一番の服装で食事を楽しみましょう』とお客様の方から言っていただくようになりました。
理解してもらうことで、『お洒落をしなくてはならないではなく、お洒落と食事と会話を楽しむ』という、今まで日本ではあんまりやらなかった新鮮な楽しみを得られたようです。
一方、あるアパレルのオーナーの方が『ジーンズが俺のファッション。ジーンズはもう世界中に普及してファッションとして認められている、俺はどこでもこのジーンズで通す』と豪語されていました。しかし、パリの高級レストランで表面はやんわりと、(実はきっぱりと)断られ、『高級レストランだからと言って、おつに澄ましているとか、東洋人だから差別してるんだとか生意気だと』相当憤慨おられました。
私はこの方は誤解されているんだと思います。一流のホテルやレストランは提供する側とされる側の両方が作るということです。
『貴方の服装を気にするのはホテルやレストランよりも他のお客様が気にする、いや不快に思われる』ということを。
ホテルやレストランを利用する人たちは美味しい食事はもちろん内装やサービスに期待するのと同じように『皆でお洒落をした華やかな中でいい時間を過ごせること』を期待して集まってくるんです。ヨーロッパの人たちでも何時も高級な食事をしているわけではありません(もちろんしょっちゅう訪れる富豪もいますが)。たぶん普段は日本よりずっと質素だとおもいます。高級な場は彼らでも特別な晴れの場なんです。例えば特別な記念日とか。こんな時こそ日常と違い、思いっきりお洒落をして皆で晴れの舞台を作って一人一人が主人公を演じながらいい時間を過ごそうと出かけるんです。
ネクタイ着用と言っているのは『貴方も一流の舞台作りにご協力ください』と要請されていることを理解することです。
南ドイツの古城ホテルで夕食を戴いた時のことです。ディナーでお洒落することの意味をお話したら、『自分達も晴れの舞台の一員になってお洒落も食事も思いっきり楽しもう』ということになりみんな思い思いにお洒落をし、美味しい食事を堪能し皆大満足し思い出深い食事になりました。
華やかなテーブルは喜ばれ歓迎されるものです。私達より先に食事を終えられた何人かの人たちがわざわざ私達のテーブルにこられて『あなた達の服はとっても素敵だよ、楽しい華やかな雰囲気を作ってくれて有難う』といってくれました。
そういえばサービスをしてくれるウェイターの人たちもとっても明るく好意的で気を使ってくれているのが感じられました。
自分たちがお洒落をして楽しくなるのと同時に、他の人たちとも楽しさを共有できることを知ってとっても良かったとメンバーの皆さんに感謝されたことがあります。