9. 縮絨(しゅくじゅう)の話
ニットの代表的な素材、あのふんわりと軽くて柔らかい肌触りのカシミヤ製品は手に取っただけで、他の素材との違いが解りますね。
当社に置いてあるカシミヤの糸をご覧になって『へぇー、これがカシミヤの糸ですかぁ』といいながら手にとってみると『エェッ、これがあのカシミヤですかぁ?!?!』と、殆どの方がビックリされます。
糸や編みあがったばっかりのカシミヤセーターの編地からはあのふんわりのカシミヤとは想像も出来ないほどガサガサの肌触りだから無理もありません。
編みあがったカシミヤセーターは縮絨(しゅくじゅう)という作業をします。
カシミヤをはじめ紡毛といわれる素材にとってこの縮絨は大変重要な作業です。
方法はなかなか説明しにくいんですが、乱暴にいってしまうと、セーターを洗ってやるんです。
勿論普通に洗うだけではありませんが、知識と高度な技術と熟練が必要です。
要は洗いながら糸の間を水が通ることによって紡がれて中に撚り込んでいるウブ毛を表面に立てるんです。
そのときに若干の縮が発生します。だから、カシミヤセーターを編む時には出来上がりの寸法を想定して大きめに編んでいかなければなりません。この縮の頃合いが難しいんです。
ですから本番のセーターを編み始める前には同じロットの糸である程度の大きさの編地を試編みして縮絨して縮み具合を計算して編み上げる寸法を決め本番にうつります。
縮絨の度合いをかるくしたり強くしたりの加減で風合いや寸法が全く変わってしまいますし、その縮絨も元の糸の撚り方の強弱でも違いが出ます。もちろん編地の詰まり具合(度目)の違いでも大きく変化します。
『こんな風合いのカシミヤセーターにするには、この程度の縮絨が必要。それにはこの糸でこの編地なら何パーセントの縮が出るのでこれだけの幅に編む』といった具合です。
厳密に言えば、編み立てる時の天候にも左右されます。雨の日、晴れて乾燥した日、冬の寒い日。特に湿度には敏感ですから調整しながら編んでいきます。熟練の職人さんやプログラマーさんたちはその日の天候で室内の温度や湿度を調整しながら作業をやっていくんです。
いろんな条件で熟練した人は編み機を何回か動かしただけで今日は軽いとか重いとかわかるようです。
また出来上がりの風合いや柔らかさなども各々好みがあります。一般に英国はしっかりした編地で着ているうちに柔らかさが出るようなカシミヤを好み、日本やイタリアでは触っていかにもカシミヤタッチの柔らかめが好まれるようです。UTOは英国と同じしっかり目です。
縮絨したカシミヤは乾燥させます。今では乾燥機を使って短時間で乾燥させるのがほとんどですがUTOはすべて自然乾燥です。自然乾燥は時間も手間も掛かりますがカシミヤにとっては最も優しい方法だと思います。
乾くと今までのガサガサとは全く違うあのふんわりのカシミヤセーターになるんです。まるでがさつなアヒルの子が優雅な白鳥に成長するかのようです。
このようにカシミヤはファジーな素材で経験と感とセンスを要する奥の深い素材です。
その分やりがいもあり面白く楽しい世界です。