ホテル・フィンケンホフ キッツビュール・オーストリア
オーストリアのチロル州インスブルックから音楽の都ザルツブルグに向かう途中にキッツビュールという街があります。そこにこのフィンケンホフという小さなホテルがありました。ありましたと言うのは、約半世紀前に訪れたホテルなのですが、今はネットで探しても出てきません。そんなに昔ですから廃業していても不思議ではありませんがとっても残念です。
チロル風の木造の三角屋根、ベランダには赤いゼラニュームが咲き誇って、ホテルの前には大人が二人でも抱えきれない立派なマロニエがありました。ホテルの裏からなだらかな緑の丘の牧場が続き、所々にモミの木が点在し、牛がのんびりと草を食むというため息が出るような光景は、子供のころからイメージしていた、いかにもチロルという光景が印象的でした。
ホテルの中はすべて白木造りで清潔感があり、ヨーロッパのホテルにはあまりないバスタブが付いていて、ふかふかの羽毛布団という、とっても素敵なホテルでした。
キッツビュールは冬のスキーリゾートとして有名で、トニー・ザイラーの故郷です。トニー・ザイラーという名前は若い人には馴染がないかもしれませんが、一九五六年の冬季オリンピックのイタリアのコルティナ・ダンペッツオ大会でスキーのメジャー競技と言われる、滑降、回転、大回転で金メダルをとった三冠王で、そのあとの世界選手権でも優勝した選手です。
コルティナと言えば三年後の二〇二六年、七〇年ぶりに冬季オリンピックミラノ&コルティナ・ダンペッツオの開催地です。
私がキッツビュールを訪れた頃はコルティナ大会から20年も経っていたのにトニー・ザイラーは街の大ヒーローで、このフィンケンホフの女将さんが、あたかも自分の息子を自慢するかのように愛情いっぱいに話をしてくれました。
トニー・ザイラーはその後映画にも出て、日本にも何度か来て、スキー競技やスキー場の設計など日本のウィンタースポーツやリゾートの発展に随分貢献してくれたようです。安比高原スキー場にはトニー・ザイラーの名前の付いたゲレンデもあるそうです。
スキーシーズンになり、トニー・ザイラーやキッツビュールの名前を聞くとあの素敵なホテル・フィケンホフと女将さんの笑顔を想い出します。