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ムツゴロウさん安らかにお休みください

 一九七〇年代、二十代の旅行屋の頃、人間とライオンの絆の物語「野生のエルザ」の著者であるジョイ・アダムソンさんを日本に招聘したことがあります。動物保護のエルザ基金の普及のためということでかなりの高齢でありながらも喜んで来日してくれました。

 彼女を招待したまでは良いのですが若者たちの貧乏会社にはお金がなくいろんなところに資金の協力をお願いに回りました。

 無謀な若者たちの行動は全くの甘ちゃんで資金は殆ど集まりませんでした。そんな汲々の中唯一協力してくださったのが当時北海道の浜中で動物王国を主催されていたムツゴロウさんこと畑正憲さんでした。

 

 事情を話すと、「うちにおいでよ!北海道で自然保護で頑張っている人たちを集めて待ってるから」と誘ってくださったんです。

 せっかく日本に来てくれたアダムソンさんだから京都と奈良は見せてあげたいということで東京から関西を回って北海道の釧路に向かい釧路動物園の開館式に立ち会って浜中の動物王国まで。動物王国の入り口まで全員が馬に乗って迎えてくださいました。そして、北海道中で自然保護活動をされている人たち十名以上を誘って頂き、牛を一頭さばいて大パーティをして頂きました。

 「宇土さんはここまでアダムソンさんを連れて来てくれたんで、うちに来たからにはゆっくりしてね」と、気遣ってくださって畑家での二泊三日の休日を頂き、「あんた島原ね!うちは日田よ!」と九州弁でおばあちゃんと楽しい時間を過ごさせて頂きました。

 その後ムツゴロウ王国でのアダムソンさんとムツゴロウさんとの動物対談をサンデー毎日が四週間にわたって連載してくれたのですが、その原稿料をすべて寄付してくださったのです。

 「ボランティアでアダムソンさんを招聘してるんだから、その資金に使いなさい」と全額寄付してくださったのです。そのあとの九段会館での公演料も西武百貨店でのサイン会の出演料もすべて寄付してくださったのです。この寄付がどれほど有難かったことか。

 

 「イヤー、若い人たちが頑張ってるんだから!」と照れながら何も見返りを求めずに応援してくださったムツゴロウさんは、真に「カッコいい」方でした。

 訃報に接し、あれから五十年近く経ってしまったけど改めてムツゴロウさんの暖かさが想い起こされます。心よりの感謝と共にご冥福をお祈りします。

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