4. ニットは、いい加減が好い加減
セーターをはじめニットの良さの最たるものは着心地の良さですね。
それはニットの特徴であるループによる編地の伸び縮みにあります。
織物は縦糸に横糸を織り込んでいくので横にも縦にも伸びませんね。この織地の組織によって服は安定して形が崩れないんですよね。
一方、ニットは編地がループなので体の動きに合わせて伸びたり縮んだりしますからとっても着心地がいいんですが、この着心地が良い利点が厄介な問題も持っているんです。
それは寸法が定まりにくいということです。
UTOは『お客様の希望の寸法で作ります』というセーターのセミオーダーが大きな特徴の一つですが、これは大変なリスクでもあります。
セーターを編む時には、何センチの巾にどれだけの針本数(目立て・と言います)で、何センチの丈に対して何回編むというのを設計図(回数書・と言います)の通りに編んでいきます。基本的にはデジタルな方法なんです。
UTOの場合、お客様お一人お一人の注文ごとに指示書を作りますので大変な作業ですが、その指示書に従って、例えば二センチ巾を出すときにはその分の針立てを増やし、五センチ短くする時にはその分の編み回数を減らして編むことになります。
変更している個所の針数なり回数が変更になっているのは当然ですが、目数や回数は正確でも結果の巾や丈がそのまま出ないで微妙に違うことがあるんです。と言うよりしょっちゅう発生します。そこを長年の経験と勘で微妙に調整しながら作り上げて行くんです。それこそ『作り上げる』という表現がピッタリだと思います。
出来上がったセーターは最終仕上げの際に一枚一枚キチンと採寸しますが、(もちろん各パーツが編みあがったときにも採寸はします)このときはスチームを当てたりアイロンを当てたりして湿気を含んだ状態になります。湿気を含むと毛は伸びる性質がありますので乾燥してくるとやがて何パーセントか縮んでくることを考慮に入れて判断します。難しいのがどのくらいの伸び縮みが出るかはその時々の多くの状況で違いが出てくるので、一概にこれという決定打がないんです。
伸び縮みの度合いは編み立てる時の気候によっても変わってきます。例えば冬の乾燥した日に編んだ編地と湿気の多い梅雨時に編んだ編地は編みあがりの時点では長さに微妙な誤差が生じます。その編地をカシミアの場合は(縮絨話・カシミヤは醜いアヒルの子)、縮絨という作業を行うことである程度縮むことを想定して編むときもあります。
また、バストや着丈などの測る位置は同じでも、置き方や伸ばしの程度など同じセーターを測っても、測る毎に、測る人ごとに誤差が出ることがあります。プロにとっては常識ですが、色の濃淡による違いから来る乱寸もあります。
『グレードの高いファッション製品だからミリ単位の細心の厳しさが当然で、センチ単位の違いが出るなんて理解できない』、と言われる人も少なくありません。特に布帛の専門家に多いようです。でもそのニットのいい加減なところが実は良いところなんです。
皆さんの着ているセーターを横に引っ張ったら何センチになりますか?多分30%ぐらいは簡単に伸びるでしょうしその反動で丈が10%ぐらい短くなってしまいます。このぐらいニットはいい加減なんです。
ヨーロッパなどからセーターを輸入する場合、同じ品番の同じサイズの同じ色でも3パーセントの乱寸のクレームは受け付けない、と最初から契約書に書かれています。だからと言って少々の違いは当然と言っているのでは決してありません。
まず、『ニットとはいい加減なもので、だからこそ良い加減』の着心地になることをどうぞご理解ください。なにせ、ニットは『莫大小』って言うんですから。