スパゲッティの想い出
いまだにあの味は忘れられなというスパゲッティがあります。それはスパゲッティ アラ ボンゴレーことアサリのスパゲッティです。「なぁんだ、パスタか」と、言われるかもしれませんが私には忘れられない味と体験でした。
今から約45年も前のローマ。前職の旅行屋での3回目のヨーロッパ添乗で、15名ぐらいのグループでした。
その日は自由行動でしたがメンバーの希望で小旅行をすることになり、ローマ郊外のチボリ公園を訪れました。
噴水の公園と呼ばれるぐらいに、森の中の公園のそこらじゅうに多くの噴水が湧き出る素晴らしい景観にみんな大満足。その帰りに、せっかくイタリアに来たんだから本場のスパゲティを食べたいということで、地元だというドライバーのマリオさんに案内してもらいました。
「マリオさんのお勧めのお店を紹介してほしい」と言うと嬉しそうに親指を上げて「世界一美味しいスパゲッティのお店に連れて行ってあげる!」と胸をたたきました。その明るく大袈裟な様がいかにもイタリア人と実感しました。
トラットーリアで庭にはぶどう棚のテラスが設けられていました。青い実のブドウがたわわに下がってブドウ棚が天井になった素敵な店でした。
一メートルもある大きな窯でゆがかれた大量のスパゲッティ。絶妙なゆで加減(アルデンテなんて洒落た言い方は当時は知りません)。アサリとガーリックの香ばしい香り。本場のイタリアで頂いているという嬉しさ。このスパゲッティ・アラ・ボンゴレーは私の人生で最も美味しかったスパゲッティです。覚えたてのイタリア語の、ボーノ・ボーノ(美味しい)や、タントタント!(沢山)を連発しみんな大満足。お腹いっぱいになり他は何にも食べられなくなりました。
後日、スパゲッティは前菜でその後にメインを食べるとガイドさんに教えられ、「きっと、主飯も食べないで、スープだけで帰った変わった客だった」と首をすくめました。
旅行屋になりたてのその頃は、庶民的なトラットリアと高級なリストランテの違いも知りませんでした。流石ベテランドライバーのマリオさん、スパゲッティを食べたいという僕らを見抜き、分相応のカジュアルなお店に連れて行ってくれたんですね。
お店に迷惑をかけたわけではないと思いますが、「エッツとか、あ~あ」という、今思えば「知らぬが仏」の色んな間違いをしでかして、多くの人に助けられていたんだと思います。こんな経験で、インバウンドの外国人の失敗は笑えません。