ロルダック ケルクラード・オランダ
元、旅行屋といってもちょっと変わった旅行屋でした。
今から40年も前。海外旅行が今日ほどに一般化していない頃、アマチュアの合唱団、ブラスバンド、オーケストラ等、音楽愛好の人達に、『海外での夢のコンサートステージを実現させる』という旅行が一番の得意分野でした。
受け入れてくれる街や団体との打合せから始まって、コンサートホールの手配、観客動員、旅行の資金集めまで団員と一緒に考える、大手の旅行社など決して手を出さない面倒な旅行で、準備が二~三年ぐらいはゆうに掛かります。民間の文化交流という自負がありました。それだけに一つ一つの旅がやりがいのある思い出深いものです。
ヨーロッパへのコンサートツアーが多く、中でも、縁あって強く心に残っているのがケルクラードというオランダの小さな街です。あまり馴染みのない街だと思いますが、オランダの最南地方でドイツとの国境の街です。
この街にロルダックというホテルがあります。本来は尼僧院ですが、建物の一部を宿泊用として一般にも開放しているんです。多分この街で一番の宿泊施設だと思います。
歴史的な僧院の建物をホテルとして改装したロルダックは外から見ると一見地味な建物です。決して豪華ではないけど重厚な建物は威厳があって、清潔で静かな、思い出深いホテルです。
ロの字型の造りで、外からは何の変哲もない古臭い石や煉瓦造りの建物ですが外からは窺い知れない落ち着いた素敵な中庭があります。中庭は石畳と芝生、僅かなバラ園があり、中庭から回廊を通して明るい陽光が建物を包み、古い石造りの建造物にありがちな陰気な感じはしません。
尼僧院ですから立派な教会があります。神戸の甲南女子高校のコーラスの生徒達と滞在している時この教会を使わせてもらいました。
とっても良い響きで、あたかも自分たちが楽器の中にいるような気分です。ゴチックの高い天井まで昇った彼女たちの声が、天から降ってくるような残響に、思わず鳥肌が立つような感動でした。
指揮者の森先生が「この残響を体験すると、二分休符の意味と効果が良く解かりますね」といわれた言葉が印象的でした。『四分休符とおっしゃったのかもしれません。素人の僕には微妙な違いが分かりません。スミマセン!』
この小さな街は、毎年世界音楽コンテストを開催している音楽に理解の深い街です。学生達と一緒にこの街を訪れる度に、市長さんが直々に全員を市庁舎に呼んでお茶をご馳走してくださったり、街を挙げてホームステイを引き受けて頂いたり、本当に感謝しています。
福井の仁愛女子高の生徒たちのホームステイを受けてもらったこともあります。
ホスピタリティを持ったホテルと街。学生たちと一緒に旅したあの頃のみんなを懐かしく思い出します。