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チップトップ ホテル ラゴス・ナイジェリア

西アフリカのナイジェリアはサッカーのワールドカップで活躍したことで名前を聞くようになりましたが、一般にはあまり馴染みのない国だと思います。
ケニヤの首都ナイロビから飛行機は一面緑の海の上を飛んで直行で約七時間。アフリカを横切るのにこんなに時間が掛かってしまう。アフリカの大きさを実感します。

当時25歳、たった一人で飛んできて降り立った西アフリカのラゴスは夜8時を過ぎていました。
豪雨が上がった直後で、管制用の燈がボーット浮かんでいます。降り立った足元からムッとする熱気が上がってきました。
タラップの下には何人かの若者が待ち構えていて乗客の荷物を受け取って入国手続きに案内しています。
こんな所で荷物を運んでくれるのは観光局か税関などのウェルカムサービスかなと思いながら入管の係官のところへ連れていってもらいます。

パスポートチェックは入管の役人が客の目線から30センチも高い台から見下ろして威厳高くチックします。案内してる若者が20ドルをパスポートに挟めとあからさまに賄賂を指示し、役人は当然のように20ドル紙幣をポケットに入れ、乱暴に判を押すと投げてよこします。

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税関でも同じように無礼極まる態度で賄賂を要求し、拒否した人の荷物を根こそぎひっくり返して調べています。下着一枚一枚まで調べられて泣いている金髪の女性もいます。
アーァ、途上国ほど役人が威張っているのは経験済みだけど、でもここはあまりにも非常識です。

入国手続きを終えほっとしてターミナルビルへ、一刻も早くホテルへ行ってシャワーを浴びたいと思い荷物を運んでくれている若者にタクシー乗り場を聞くと「こっち、こっち」と荷物を持ってドンドン進みます。オット、荷物を持っていかれたら大変と後を追います。

ターミナルビルを横から出てすぐです、『暗いシケタところにタクシー乗り場があるんだなぁ』と思いながら、暗がりに目が慣れて気配がしてひょっと横を向くとナタみたい鉈のような刀とピストルを持った男、5~6人に囲まれているんです。

暗がりの黒人の目が、あたかも自分が追いつめられたように異様に厳しい目付きです。こいつら本気だ。声を出したら一撃で殺されるという思いで全身が硬直状態です。
何時の間にかホールドアップした背中にぴったりと附いている男が、背骨に鉈の柄(と思う)を痛いほど押し付けてきます。
正面の男が、「マネー」と声を出しました。
ホールドアップしたまま、目で胸ポケットを指すと、ゆっくり内ポケットから財布を抜き取りました。後で思い返すと、リハーサルもやっていないのに私も強盗も一連の行動が切れるような緊張状態の中でスムーズに無言で進んだのが不思議でした。

現金だけを抜き取りポケットに入れると財布とパスポート、チケットを二方の暗がりに投げたんです。同時に全員がサッと逃げ出しました。
『助かったー!』と緊張が解けた途端にひざがガクガクします。力が抜けて立っていられません。
『こんな暗がりでぐずぐずしていたら、またなにが起こるか解からない、早くパスポートやトラベラーズチェックを、チケットを財布を』。『人を呼ぶ、いやそれより安全な明るい処へ』。頭の中はパニック。でも拾い上げたパスポートが雨上がりなのに濡れていなかったことを妙に覚えているんです。

重い荷物を引き摺って、明るいターミナルの正面に辿り着いたときは、警察や日本大使館より、早くホテルで横になりたい一心です。でなかったらこのままここに倒れ込みたいぐらいふらふら状態です。

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ホテルへ向かう4人の相乗りのナイジェリア人は体格が大きいんです。まんじりともせず暗闇を見ているとまた凄い雨です。3人が降りて最後に私のホテルに着きました。タクシーにはかなり吹っかけられた感じがしますが運転手と争う気力はありません。

ナイロビで予約して辿り着いたチップトップホテルは板を置いただけのカウンターの上に裸電球が一つだけぶら下がっているひどいホテルです。あんな強盗に遭った後がこのホテル。その上予約が入っていないと言う。ガックリというよりへたり込みたいくらいに力が抜けます。こんな状態で他のホテルを捜す気力など残っていません。
気持ちを絞り出して、ナイロビで予約したパンアメリカンの確認書を見せ『どうしても部屋を用意してくれ』とねじこみます。

部屋はもっとひどいものでした。鍵が壊れていて、エアコンは全く動かず湿気ムンムンです。シャワーの水も出ません、トイレも壊れていて大便が浮いています。外は相変わらず豪雨です。とにかく横になりたい。ただ、また強盗に入られるのだけはと、鍵の掛からないドアの内側にしっかりバリケードを作ってかび臭いベッドに倒れ込みました。

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40年近くも前のことですが、今思い出しても本当に嫌な出来事です。でもよく無事だった。正面にいた男の顔はいまだに忘れません。
この頃はナイジェリアと聴いてもあまりこのことを思い出さなくなりました。でも、この文を書きながら当時のことを思い出すだけでもあの時の感覚が甦り手に汗がにじみ疲れます。
一生思い出したくないホテルチップトップは今までで一番最悪だったホテルに違いありません。

強盗に会いながらも翌日から仕事は済ませました。しかしその2日後今度はクーデターが起こり仕事はすべてパーになりました。この厳しい経験でその後の旅の仕方も変わりました。

生々しい傷が痛み、少しずつ癒えて触っても痛みを感じない痣になるまで20年以上もかかりました。
貧困と犯罪、リーダーシップと教育の大事さを考えさせられます。
このごろのサッカーの国際試合ではナイジェリアを応援しています。特に英国プレミアリーグ・チェルシーのミケル選手は大好きで応援しています。  

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