2002.9 究極のおたくショップ・志賀昆虫店
* カシミアおやじのたわごと *
(注:現在志賀昆虫店はなくなってしまいました)
普段の通勤で、陽気のいい日はたまに渋谷から骨董通りの会社まで歩きます。宮益坂を登りきった青山通りの左側に『志賀昆虫店』という超マニアックなお店があります。
田舎の小学生の頃から一番行って見たい店、というより東京で知っているたった一軒のお店がこの志賀昆虫店でした。
小学二年生の時、夏休みの宿題で昆虫採集の標本を作ったのが切っ掛けで蝶に嵌まって以来20年以上、蝶を追っかけていました。現在は長いお休み中です。
私の田舎は九州・島原のまたその隣の小さな町。そんな田舎では蝶など追っかけまわす子供は周りにはいません。当然のことながら情報も殆ど無く、小学校の図書館にあった『子供の科学』という本が唯一の情報源で、その本に広告を出していたのが『志賀昆虫店』でした。
この店から補虫網や針を始め、蝶の翅を広げて固定させる展翅版や標本を保存する標本箱など採集や標本を作るのに必要な用具の殆どを、なけなしの小遣いを貯めて郵便で送ってもらっていました。
長い間憧れていた店に初めて入った店内は、採集用具のほかに南米のモルフォ蝶の標本や喉から手が出るほど欲しい専門書が並べられ、防虫用のホルマリンやアルコールが微かに臭う、想像通りのお店でした。
そのとき偶然来店していたのが作家の北杜夫。
楡家の人々、ドクトルマンボウシリーズを始め殆どの本を読んでいるほどの大ファンです。心の中では『オォー、あの北杜夫だ!』とミーハーしてたのに、あの本の話は作り話じゃなく本当に昆虫を追っかけてるんだ。と妙なところで感心したことを憶えています。
志賀昆虫店は昭和六年に創業し、4階建てのこの店は昭和39年に建てられ、当時は渋谷駅から見えたそうですが今では周りに大きなビルが出来てビルの谷間にひっそりとある店という感じです。
たまには入ってゆっくり見たいと思うんですが、狭い店で来店者があると、真面目なのか商売熱心なのか、すぐお店の人が後ろに立ってずっと見てるんです。この頃、蝶は長期休暇中ですので買うものがなく冷やかしだけではなかなか入りづらいんです。
商品は確かです。実際に私の標本箱にはいった蝶の標本は30年経っても殆ど無傷で保存されています。
蝶の話をするとよく言われることがあります。
「今も蝶々の標本あるの? ふぅ~む・・・。
翅広げて針に刺してるんでしょぅ。
それで、その蝶々、ど~すんのぉ?」 「さぁ・・・。」
なんとも答えようがないんです。