2004.3 カシミヤへのこだわり
* カシミアおやじのたわごと *
5~6年前から大変お手軽な値段のカシミヤが出回っていますね。また昨年はユニクロも大掛かりにカシミヤを売り出し反響を呼んだようで、『同じカシミヤなのにどうしてそんなに値段が違うの?』と、度々聴かれます。お店からも『お客様からそんな質問をされて困った』と言う話を聴きました。素朴な疑問だと思います。
毎日カシミヤを扱っているものとしては、『全然違うのになぁ』と思うんですが、専門でない人やあんまりなじみのない人は、簿妙な違いは判らないかも知れません。触った感じと言っても微妙な感触や感覚の違いですから文章ではお伝え出来ないもどかしさがありますが、無理もありません。
的確ではないかも知れませんが、例えばこんな『お蕎麦の話し』の例でお話しましょう。 海外の大生産地から大量に仕入れた蕎麦粉100パーセントの原料にして、流れ作業で大量に作りこまれた麺を、あらかじめ下ゆでした蕎麦玉。『らっしゃい!』と、お客様が来たら、さっと湯通しして、これまたあらかじめ用意していたおつゆをかけて、きざみねぎを載せて素早くお客様に出す『立ち食い蕎麦』。安くて、早い。忙しい仕事の合間では便利で有り難い存在ですね。
一方、熟練の名人が、厳選した産地の蕎麦の実を、石臼で粉に挽き、水にこだわり、吟味した出汁のおつゆ。心をこめて打つ蕎麦。添える山葵はもちろん生。お店には季節の花が飾られ落ち着いた雰囲気に行き届いたサービス。
そんな中で頂くお蕎麦は、値段は張るでしょうが微妙な味と心づくしがお腹も心も至福にしてくれます。
どちらも本物の蕎麦粉100パーセントですからお蕎麦に違いはありませんね。同じカシミヤ100パーセントでも、このお蕎麦100パーセントの話の例ぐらいに違いがあります。
カシミヤの原毛も、繊維の太さ、長さ、色など等級によりピンからキリまであります。それこそ価格もピンからキリです。その原毛からどんな糸を作り上げるか。もちろんこれにも多くのノウハウがあります。素晴らしい製品は、良い原料を使い、製造の各々工程で匠たちが日夜ベストを尽くして作りこんでいるんです。
それぞれの商品にはそれぞれの目的があり、その目的によってそれぞれの作り方がありますね。より多くの人に買ってもらうために、より安く作ろうと頑張っている会社もあります。それに向かって社員は日夜努力しています。
もし、私が安いカシミヤの担当者だったら、あの価格のカシミヤ製品を作れるか?
自信を持って『イエス!』です。
『カシミヤの原料の中でも、繊維の太くて短い、低い等級の原毛』を『強めに撚りをかけた糸』を作り、『高速で甘めに編み立て』、『強めに縮絨と柔軟剤をかけた製品』を、『大量に直売する』。
『』のところがポイントですが、この商品はおそらく店頭にあるときが最高の風合いで、着用したり洗濯するごとに劣化して、何シーズンもの着用には耐えられないかもしれません。でもカシミヤは他のウールに比べても抜群の柔らかさを持っていますから、等級の低い原料でも糸や編地が甘くても、あんまりなおじみのない方には全然判らないし、この程度のカシミヤを求めておられるのかもしれません。
こんなよそ様と比べる話はむなしいので、もっと前向きな、『UTOはこんなモノ作りをしています』という自慢話をしたいと思います。