1994.5 古城に泊まる しばし中世貴族の気分
* カシミアおやじのたわごと *
ヨーロッパを旅していると、よくこんな風景に出会います。
なだらかな丘の連なりに豊かな畑が広がり、緑あふれる森を抜けると、ゆったりとした河の流れに出合います。やがて教会の尖塔が見えてくるとその教会の周りには昔ながらのたたづまいの街が息づき、街を見下ろす高台には中世の古城が建っています。映画のシーンみたいで気障っぽいけど、こんな情景はヨーロッパの田舎では普通なんです。
そんなヨーロッパを旅する楽しみの一つに、その古城に泊まるというのがあります。
古城といったら、入場料を払って見学するということになりそうですが、ヨーロッパにはこのお城にゲストとして泊まれる古城ホテルがたくさんあります。
立派な庭園、広大な農園を先祖から相続した領主の末裔たちは、今の世ではこの遺産を維持していくことはなかなか大変なようで、お城にお客様を泊めることで古城を維持しているケースが多いようです。
長い歴史を刻む家具やインテリアに囲まれて、中世にタイムスリップしたり、広大な農園や庭園を散歩したり。リゾート気分になれて、なかなか良いもんです。多人数では無理ですが、古城ホテルを宿泊に取り入れることは、旅を作るテクニックとしては大変有効です。かえってこっちをメインテーマにしてスケジュールを組むときもあるくらいです。
でも良いこと尽くめでもないんです。たいていの古城ホテルはそんに部屋数は多くはないんです。その上、部屋の大きさや種類もバラバラというケースが多いんです。
ドイツのヴュルツブルグにあるシュタインブルグという古城ホテルに泊まったときのことです。このホテルは市内を一望する丘の上に建ち、周りは一面のブドウ畑です。客室はもちろん、尖塔部分も改装して客室をつくったために部屋が円形なのです。そのうえ窓は鉄砲を撃つための覗き穴だけという珍しい部屋。
また、ベッドルームより風呂場の方が三倍も広いという面白い部屋。これは王様用のお風呂場で、ベッドルームになっている部屋はなんと更衣室。みんなで大笑いしたり、貰い湯をしたり。
これでお分かりのように、古城ホテルのツアーで最も大変なのが部屋割り。部屋のタイプが違うことをよ~く理解してもらい、風変わりな部屋などは二度と泊まりことは無いだろうから豪華ホテルでお金を積んでも経験できないことを楽しんでもらうことです。
でも、一番いい部屋や、めずらしい部屋はみんなの集合場所になったり、ワイワイ、がやがやになるのが常です。
ドイツのロマンチック街道にある、ネルトリンゲンという街での泊まりは、ドイチェスハウスと言って、昔はこの街の市庁舎だったホテル。この時にはもちろん元市長室が集合場所でした。