1998.5 春の女神 ギフチョウ
* カシミアおやじのたわごと *
小学校2年の時、夏休みの宿題で昆虫採集をやったのがきっかけで蝶に嵌まり、以来40年以上も昆虫少年を自負しています。
現在は網を持っての採集はお休み中ですが、春の便りを聞くと『今年はあの蝶に逢えるかなぁ』と、わくわくしてくるギフチョウという蝶がいます。蝶屋の間では、『春の女神』と呼ばれています。
遠くの山にまだ雪が残り、冬枯れの林に辛夷の白い花が見受けられる春まだ浅き里山の雑木林。雪解けの名残でしっとりした足元にシクラメンのようなピンクの花の可憐なカタクリが咲く頃です。
待ち焦がれた春が来て、最初に目にするのがこのギフチョウ。だからよけいに愛おしくなります。
黄色に黒い縦縞模様。後ろ羽根の裾の赤色のポイントが印象的な蝶です。最初に発見されたのが岐阜県だったのでギフチョウと言う名前が付いたんですが、ラテン語でルードルファ・ジャポニカと言います。ジャポニカと言うだけに、この蝶は日本にしかいません。食草が葵(カンアオイ)です。
葵という、かの水戸黄門でおなじみの徳川家の家紋です。
この蝶は、恐れ多くも上様の御紋所の葵を食べて育つのです。生息地は本州で、私の生まれ育った九州にはいません。だからずっと憧れの蝶でした。
70年代に、大垣に住む姉と、甥っ子や姪っ子と一緒に岐阜県の谷汲(たにぐみ)に採集に行った日のことが想いだされます。
木漏れ日の林の中を飛び回る女神を興奮して追っかけたり、菫の花にぶら下がって蜜を吸っている姿に見とれたことが忘れられません。
その谷汲も開発が進み生息地も少なくなり、今では採集禁止になっているそうです。今では本当に貴重な蝶です。
その時のいたずら小僧も、泣き虫だった姪っ子も、同じ年頃の子供を持つ親になってしまいました。