6. 編みの話
セーターは通常、前身頃、後身頃、右袖、左袖と衿の5つのパーツを縫い合わせることで作られますが、このパーツを作るためのニット版型紙が『回数書』といわれるもので設計図のようなものです。
布帛やカットソーの場合はパターンに合わせてパーツごとに『生地をカットして縫う』ことになりますが、ニットの場合はパーツを『回数書きの通りの形になるように編む』んです。ニットには成形とカットソーがありますが、UTOのカシミヤセーターは基本的には全て成形という編み方で編まれています。このようにセーターの身頃や袖などをパーツの形になるように編みあげていくのが『成形ニット』なんです。
ニットを編む場合、身ごろは裾から編み始め、袖は袖口から編みが始まります。
心情的には上の肩の方から裾に向かって編んでいくのかなぁと思いがちなんですが逆なんです。
例えばUTOのレディスのインナータイプの前身ごろの場合です。
最初に袋編みで裾を編んだ後に天竺編みに変えて身頃を編んでいきます。裾からウエストまで絞られていますので(見た目にはウエストから裾まで広がっているんですが)両脇の編目の数を減らすことでシェイプの角度を作っていきます。減らし方も5往復に1目減らすとか、6往復に1目減らすとかシェイプの角度によって変更します。
一番細いウエスト部分まで来たら今度は脇下まで先ほどの減らし目と逆の増目の作業をしながら増やしていきます。脇の下まで来たらアームホールです。アームホールのくりは最も繊細な減らしをしながら編んでいきます。
後身頃も前身頃と同じように編み立てますが、特徴は肩下がりを減らしの作業をすることで編んでいくことです。ご自分のセーターを確認していただくとよく理解していただけると思います。たまにタートルネックのように前下がりが判りにくいセーターで、どっちが前?と聞かれる人がいらっしゃいますが、肩減らしがあるほうが後と覚えていると間違いありません。
肩下がりを肩線上でなく肩甲骨の上辺りに作ることで上着を着重ねしたりバッグ等を肩に掛けたときに縫製の箇所が当たらないのでごろつきが無いというのも成形セーターの良さのひとつです。
このように成形編みのニットの各パーツは一本の糸で繋がっているので糸を無駄にしません。と言うより普通の糸の10倍近くもする高価な糸ですから1グラムも無駄に出来ないというのが本音ですが、限りある資源を大事に使い丁寧なものづくりは今後はエコロジカルウエアーとしてもっと支持を得られる製造方法だと思います。
編みミスが出たらそこまでほどいて編みなおすんですが、編み始めの裾や袖口辺りにミスがあるとそのパーツはもう一度新しく編み直すしか方法がありません。ですから『もうちょっと長くしたいとか、短くしたい』というお直しの要望があっても、もう一度編みなおすしかないんです。
その上、カシミヤというか紡毛ならではの特徴ですが、縫製した後に仕上げとして縮絨という大事な工程があります。この縮絨をすると糸に緩みが出てふんわりと柔らかくなるんですがその変わりに引っ張りに対する強度が落ちるので一度製品に仕上げた製品を部分的に取り替えることが難しいというのも、お直しが難しい原因でもあるんです。