十和田ホテル
親の仕事の事情で中学から高校までアメリカの公立学校で過ごした甥っ子は日本に戻り大学に入ったけど日本に馴染めず半年間でアメリカへ帰ることになりました。 日本の良さを知ってもらいたくて甥っ子を誘って二人で東北一周の旅をした時訪れて以来の十和田湖です。
八戸からJRバスで。途中緑滴る奥入瀬の渓流を見ながら十和田湖へ。三十年前に甥っ子と来た懐かしい道です。
十和田湖の休屋に着いた時はあいにくの天気で風が強く、波しぶきが湖岸の歩道にまで飛び、あの有名な裸の乙女像が風に吹かれて寒そうでした。遊覧船も運休でホテルからの迎えのバスの乗客は私一人でした。
戦前に建てられ、その建物でずっと営業している「クラシックホテル」と言われるホテルが好きで機会があるごとに訪れました。始めて20代の時に泊まった奈良ホテルを皮切りに、九州の雲仙観光、蒲郡、上高地帝国、富士屋、金谷、横浜ニューグランド等々。それぞれのホテルに歴史と味わいがあり、昔日に誘ってくれました。
この通信でも多くのクラシックホテルを紹介させて頂きました。
30年前は日程の都合で泊れなかったのでこの十和田ホテルは本当に楽しみにしていました。
十和田ホテルは一九三九年に創業した東北を代表するクラシックホテルです。建物は当時の秋田の大工の匠たちがその技を尽くして作り上げたもので落ち着いた雰囲気と質実剛健な姿勢に品格を感じます。特に登録文化財に指定されている木造本館は、一度は泊まってみたいと憧れていたクラシックホテルとして私が思い描いていた以上の迫力の木造建築物です。宮大工が誇りと魂を込めたと言われる見事な木組みの玄関は「凄い!」という感嘆の言葉以外には表現が出来ません。
季節外れの誰もいないホテルのライブラリーはインテリジェンスを備えた空間で、何か静かな時間が漂っていて、時空を超越した魅力がありました。
心地良いソファーに座って大きな窓から外を眺めていると、嵐が去った外輪山の森はまるで時間が止まったように感じます。稜線は霧に包まれ、目の前に広がる森は豊かで、風が吹くたびに木々が揺れ、枝がたわむ様に時間を忘れました。
チェックアウトして「近くですから」と、送ってもらった十和田プリンスホテルは、三十年前に訪れた気持ちの良い広い芝生が健在でした。
この十和田の旅は、自然と歴史、そして甥っ子との想い出が交錯する、特別な旅でした。