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青山の善光寺

表参道の交差点にある交番。いつ通りかかっても誰かが道を尋ねていて、『いったい一日に何人が来るんだろう』と要らない心配をしてしまうぐらい利用者の多い交番です。
その交番をちょっと入ったところにお寺があるのを知っている人は少ないんじゃないでしょうか。善光寺というお寺です。そうです、あの『牛に引かれて善光寺参り』の長野の善光寺の別院です。

2012年6月青山善光寺.jpg

境内はそんなに広くはありませんが、山門の両脇にはおっかない仁王様がいらっしゃって、本堂の二層の屋根が立派なお寺です。
ここは交差点の喧騒とは打って変わって静かな空間です。春には桜が表参道の欅並木の若葉より一足早く和ませてくれます。

ファッションの街表参道にお寺とは意外な気がしますが、三百年も前からここにあるそうです。安政四年(一八五七年)に尾張屋から出された、江戸切絵図の『東都青山の図』にもちゃんとこの善光寺が載っています。

善光寺飾り2.jpg        善光寺飾り1.jpg

嬉しいことに、大好きな池波正太郎の『剣客商売』の第十巻に、この善光寺が重要な舞台として描かれています。主人公の秋山小兵衛の息・大治郎があらぬ暗殺者の疑いをかけられる『春の嵐』という物語です。

秋山親子の協力者でお上のご用を働く密偵の傘屋の徳次郎が、自分の命の恩人である大治郎の疑いを晴らすべく真犯人を探して渋谷の今王八幡神社で何日何日も見張り続け、ある日この善光寺まで足を伸ばします。

その下りが…
傘屋の徳次郎は、善光寺の境内にいた。
善光寺は、青山通り・百人町の北側にあって、信州善光寺・本願上人の宿院である。 創建は、遠く永禄の時代で、当時は谷中に在ったのを、宝永二年(一七〇五年)に、将軍・徳川綱吉の命によって青山へ遷されたという。
本堂には阿弥陀如来を安んじてあるが、となりの観音堂には、百体の観音像が安置され災難よけに参詣する人々が絶えず、門前も大きい。
徳次郎が境内に入り本堂と観音堂に祈りをささげたのち、(門前の茶屋で、名物の熱い饂飩でも食うか…)とおもい、観音堂から三社宮の鳥居のあたりまでもどって来て、ひょいと仁王門の方を見やった傘屋の徳次郎が、おもわず、「あ、先生…」
と、ついに大治郎にそっくりな真犯人を見つけ事件の糸口をつかみます。
読者も、『よし!良くやったと!』喝采を上げたくなる、この物語の重要なシーンです。

そんなシーンを思い浮かべながらこの境内に立って、『あの名物の饂飩屋は実存したのかなぁ?』とか、『今は門前がほとんどないけど、絵地図には門前に家が立ち並んでいるから、当時大山道といわれた青山通りはもっと細い通りで、今の通りの真中あたりまで家があったんだろうなぁ?』とか、あれこれ思い巡らすのは楽しいものです。

表参道に面した境内の西側からルイビトングループのビルが見えます。最新ファッションビルの裏がお寺とは面白い組み合わせですね。

2012.7.23 青山通りから善光寺.jpg

青山通りからビルの間に山門が望めます

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